
観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)は、仏教、特に大乗仏教において、阿弥陀如来の脇侍(わきじ)として、また独自の信仰対象として、最も広く深く信仰されている菩薩です。
その名は「世の音(声)を観じる菩薩」という意味を持ち、「一切衆生(いっさいしゅじょう:すべての生きとし生けるもの)が発する苦しみや願いの声を聞き、それを救うために現れる慈悲深い存在」として知られています。
一般的に「観音様(かんのんさま)」と呼ばれ、日本仏教の様々な宗派を超えて篤く信仰されています。
- 観世音菩薩の基本的な性格
- ① 無限の慈悲(大慈悲)
観世音菩薩の最大の特質は、大慈悲(だいじひ)です。どんなに小さな苦しみや悩みであっても見過ごさず、分け隔てなく救いの手を差し伸べる誓願(せいがん:誓い)を持っています。この慈悲は、すべての人々を愛し、苦しみから救い出す母のような愛情に例えられます。
② 現世利益(げんぜりやく)
観世音菩薩は、この世での具体的なご利益をもたらす菩薩として信仰されます。これは、人々が今抱える苦しみや不安を、仏の教えの力によって和らげ、取り除くという現世的な救済力を持つためです。
③ 施無畏者(せむいしゃ)
「観音経」には、観音様が「施無畏者(恐れを施さない者)」であると説かれています。これは、人々が抱えるあらゆる恐怖や不安を取り除き、安心を与えることを意味します。
- 主要な名称
観世音菩薩(かんぜおんぼさつ): 「世の音を観じる」という意味。
観自在菩薩(かんじざいぼさつ): 主に『般若心経』に登場する名称。「すべてを自在に観察し、自由自在に人々を救う菩薩」という意味で、より仏教的な智慧の側面を強調しています。
救世菩薩(ぐぜぼさつ): 広く世の人々を救うという意味。
- 功徳(ご利益)と「観音経」の教え
『妙法蓮華経 観世音菩薩普門品第二十五』(通称:観音経)には、観世音菩薩の名を唱えることで得られる具体的な功徳が説かれています。
六観音(ろくかんのん)とは
衆生が輪廻転生する六道(地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上(極楽浄土))のそれぞれに赴き、その苦しみに応じた姿で救済する六体の観音です。
聖観音 地獄道 観音の基本形。
千手観音 餓鬼道 千本の腕で全ての苦しみを救う。
馬頭観音 畜生道 憤怒の表情で馬の頭を持つ(煩悩を食い尽くす)。
十一面観音 修羅道 十一の顔で全方位を見守る。
如意輪観音 天道 如意宝珠と法輪を持つ。思惟のポーズ。
准胝観音 or 不空羂索観音 人間道 宗派により異なる。全てを漏らさず救い取る。
脇侍としての役割
観世音菩薩は、西方極楽浄土の教主である阿弥陀如来(あみだにょらい)の左脇侍として、勢至菩薩(せいしぼさつ)と共に祀られることが一般的です。この組み合わせを阿弥陀三尊と呼びます。観音菩薩は、阿弥陀如来の慈悲を象徴し、人々を極楽浄土へ導く役割を担います。
観世音菩薩は、その無限の慈悲によって、私たちの日々の生活の苦しみから救済し、心の安らぎと希望を与えてくれる、最も身近な仏様の一尊なのです。
